電子投票の可能性(日立製作所システム開発研究所訪問記)
                                      インターン生 石田寛和   (2003年4月18日制作)

<前書き  吉田つとむ)
 下記は、見出しの通り、インターン生の石田寛和さんを同行し、電子投票システムの見学に、日立製作所システム開発研究所を訪問したときの記録です。その記事は、全て石田寛和さんが書いたものです.彼は私に同行し、広島市の電子投票の投開票を現地に視察見学をしており、恐らくその複数の電子投票システムを見た唯一の学生でしょう。
 そうした意味でも、下記のレポートは価値あるものだと考えます。この項にコメントがある場合、別の機会に記すことにします。とにかく、良く観察しています。

<見出し>
1. 経緯
2. 電子投票
3. 日立の電子投票方式
4. 電子投票の可能性

体験の写真へのリンク

1. 経緯

 私は、2003年4月11日吉田つとむ町田市議会議員の日立製作所システム開発研究所の視察に同行した。日立製作所システム開発研究所(以下日立)を訪れた目的は、日立が独自に考案した「2次元コード」を利用した電子投票方式を視察することである。
 私自身は、2003年2月2日に行われた広島市長選における広島市安芸区での電子投票を体験・見学した。これは、吉田さんが企画した地方視察に同行させて頂いたことにより実現したことだ。選挙で投票をまだ体験したことがなかった私にとって、選挙という生の政治現場を自分の目で体験できたのは大変有意義なものだった。
 このような経緯もある上、大学で政治学を学んでいる私にとって、今回の日立訪問は興味深いことだった。現在、未知ではあるがビジネスとして巨大市場になり得る電子投票を狙って、様々な企業が研究・開発を続けている。行政という「公」と民間企業の「私」がどのように結びついているのか。また、以前見学した電子投票方式とはどのような違い、特色を持ち差別化を図っているのか、ある種の期待感を持っていた。また、指摘できる点を見つけるのは困難なことだとは思っていたが、日立のシステムの問題点、死角を突こうという意気込みだった。

2. 電子投票

 日立での電子投票方式の見学の内容に触れる前に、電子投票とは何かということに簡単にふれておきたい。
 電子投票とは、「狭義の電子投票は、タッチパネルや押しボタンなどを用いて、投票行為そのものを電子化することであり、広義の電子投票は、さらにマークシートやパンチカードなどによる投票や自宅からのインターネット投票を含む場合がある」(電子投票普及協業組合ホームページより)ということである。
 従来の自書式の投票方式と比較して投票の電子化によるメリットをまとめると、@投票手順の簡素化、A開票時間の短縮B正確な投票結果の実現C選挙における必用経費削減D疑問票、無効票、案文票の削減E投票行為のバリアフリー化F投票率の向上などが挙げられる。
 以上に挙げた点の中ではAとEが特に重要な点だろう。Aについては実際、私が見学した広島市長選の安芸区での開票結果は、約20分程で終了した。これは、不在者投票分の開票を含めてのものである(現行の法では、不在者投票の電子化は認められてはいない。)。あっさりと終了した開票に驚いた。Eについては、少しでも多くの有権者が投票できる環境環境作りという面で非常に重要だろう。例え、障がいを持っていたとしても、自分の意思を反映することが出来る。これが民主主義の本質だろうと思う。
 しかし、電子投票にも問題はある。まずは、個人情報や誰に投票したのかといった情報の漏洩、また改ざん等の対応が完全であるのかという心配がある。現に住民基本台帳処理システムのバックアップデータが盗まれたという自治体が存在している。自治体の個人情報管理における認識の甘さを完全に否定することはできない。
 また、電子投票はまだ普及には程遠い存在であるため、どうしても投票機自体のコストが現状では非常に高くついてしまう。自治体へリースという形式もある上、電子投票が普及すればコストも当然下がると思われるので、この問題はやがては解決されるかもしれない。
 様々な方式の電子投票が開発研究されていて、それぞれ形式は異なる。しかし、電子投票を導入することの理念はすばらしいし、メリットも数多くある。私自身は、少しでも早く電子投票が普及すればよいと思う。その際は、電子投票先進国であるアメリカ、ブラジル、ベルギー等の諸外国を謙虚に学ぶ姿勢が必要だろう。国民が不安を持つことなく、納得した形の電子投票がいち早く普及することを願っている。

3. 日立の電子投票方式

 日立が考案した電子投票方式は、「2次元コードスキャナ方式」というもので、言わば記号読み取り方式というものだ。これは、2次元コードスキャナという円筒状の形をしたペンのような機械を、候補者用紙上の2次元コードに押し付けてそのコードを読み取るという形式である。
 2次元コードという記号は、どういうものなのだろうか。2次元コードは10年程前に開発され、バーコードに似ている。しかしこれは1次元のコードである。1次元コードとはデーターを表示させている方向が直線方向だけのものである。これに対して平面的に縦方向と横方向にデーターの意味を持たせたものが2次元コードである。
 2次元コードは、1次元コードに比べ大容量のデーターを扱えるのである。また、読み取り機と汎用のパソコンがあれば、コード内容が読み取ることができる手軽さも利点である。さらには、コードにおける最大30%程度の傷やかすれは自己復元して読み取り可能という面もある。これにより、厳しい環境下でも使用することが可能である。現在、企業や工場で生産管理、在庫管理、出荷管理や図書館での貸し出しの管理等ですでに使われている。
 日立は、この2次元コードを利用した。これによりどのような利点、効果が生まれてくるのだろうか。
 2次元コードは、候補者用紙上の各候補者氏名の上にそれぞれ記載されている。候補者1人につきコードひとつという形だ。そのコードにスキャナを押し付けるのだが、この候補者用紙において重要な問題がある。
 候補者用紙はあくまで紙なので、候補者数が何人であろうと対応できる。日本では、首長選挙だと候補者は少数だが、地方議員選挙となるとその数は非常に多くなる。2次元コードの大きさは1円玉程度なので、候補者名を一緒に記載しても最大でA3程度の1枚の紙に一覧記載できる。これは、平等な選挙運営を実現させる上で、非常に大きな役割を持っている。以前のタッチパネル式での投票方式では、画面そのものを巨大化させない限り1画面に15人程度しか表示できない。これでは平等性を保つことは出来ないと思われる。
 また2次元コードは、コード自体を制作する機材さえあれば、いつでも迅速に不測の事態には対応できる。例えば、候補者の突然の候補取りやめや急死などの事態でも、候補者用紙さえ印刷しなおせば対応できる。また、この際のコストは印刷費程度なので、非常に低く抑えることができる。
 他には、タッチパネル式とは異なり、候補者用紙は、あくまで紙なので、機材は投票者確認をする液晶画面とスキャナのみなので運搬費も削減することができる。また収納のスペースも小さくてすむ。これらは、自治体にとって大きな利点となるだろう。
 以上の点が日立の投票方式の大きな利点である。候補者に対する平等性や、緊急時の迅速な対応が可能な点、コスト面の低さが大きな3本柱である。しかし、問題点はないのだろうか。今後はこの点について考えてみたい。
 2次元コードを読み取るスキャナは、120gという重さである。この重さは、特に重くは感じなかったので問題はないと思う。しかしタッチパネル式と違いあくまで「持つ」という動作が必要なので、障がい者から見ると辛い面のあると思った。この面では、タッチパネル式の方が、画面に触れるだけなので、容易に投票できる。
 また、スキャナでコードを読み取らせるには、少し押さえつけなくてはいけない。要するに少しの力が必要なのである。この点も障がい者やお年寄りにとっては、バリアーとなることがないとはいえない。日立の側も、開発中にモニタリングをして、問題はないとのことだったが、果たして本当にそうなのだろうかと疑問が残った。
 もちろんこのような場合、補助人を立ち会わせることは、可能だろうが秘密選挙や平等選挙といった面での問題性はあるだろう。さらなる改善がなされることを期待したい。
 本当は、もっと多くの問題点を探したいと思っていたが、この点しか挙げることが出来なかった。それだけ日立が開発した投票方式は完成度が高かったということだろう。以前に広島市長選での電子投票を見学した経緯から、その時のタッチパネル式との比較という形になってしまった。以上の点以外の面、例えば投票時に間違えて違う候補者を選択してしまった場合、修正可能な点は共通するものも多かった。

4. 電子投票の可能性

 なぜ電子投票が普及しようとしているのだろうか。この答えは様々な答えがあるだろう。例えば、人件費の削減である。従来の開票には多くの時間と人員が必要だった。人手で作業を行うためミスも少なからずあっただろう。人間よりも機械の方が優秀というのは、残念なことかもしれないが、素直に認めるべきだろう。また例え、電子投票を導入するのに莫大な金額がかかったとしても長い目で見れば、安上がりとなるだろう。多額の借金を抱えた自治体にとって救世主の役割の一部を果たすことが出来るようになるだろう。
 さらに、この点以上に重要な答えがある。それは、投票のバリアフリー化を実現できる可能性を秘めている点だ。あらゆる民意を反映して政治が運営されるのが、民主主義の務めだと思う。誤解を恐れずに言うと、障がい者は、社会の中では少数派である。その少数派の意見も当然生かされないといけない。そのためには、選挙のバリアフリー化は大きな意義があるだろう。電子投票の最大の利点はこの点だと思う。選挙では平均して、白票を含めてだが、バリアーによる無効票が平均1%程度発生するようだ。投票率、有効投票率を上げ少しでも民意を有効にするためにも電子投票普及を期待したい。
 電子投票が全国的に各自治体に普及すれば、何億というお金が動くビック市場になるだろう。現にそれを狙って、日立を初め多くの企業が開発にしのぎを削っている。しかし利益性のみを追求して開発するのではなく、あくまで投票者側、候補者側の立場に立って開発してもらいたいと思う。
 最近、生まれて初めての選挙に行った。政治に対しての不信感や不満から投票率は年々下がっている。せっかくの権利を無駄にしている。これは、非常にもったいないことだと思う。自分自身の一票が、社会への意思表示となる喜びを感じることができた。この喜びを多くの人が共感できるようになってもらいたいと思う。電子投票の役割は大きいと思った。
どんなことにも新しく始めることには反発や問題点がある。しかし、正しい理念さえあれば必ず解決されるだろう。今後の電子投票の展開を見守っていきたい。
  
 <参考文献>
  横江公美 『Eポリティクス』(文春新書 2001年)
 <参考ホームページ>
  ・電子投票について
  電子投票普及組合ホームページ 
http://www.evs-j.com/ (2003年4月参照)
  ・日立式電子投票方式について
日立製作所システム開発研究所ホームページ「2D vote」
http://www.sdl.hitachi.co.jp/2Dvote/ (2003年4月参照)
  ・2次元コードについて
  柿木弘志氏のホームページ   
http://plaza12.mbn.or.jp/~kakitarou/ (2003年4月参照)