● PFI事業の可能性(インターン学生 大里亨さん作)
        戸田建設担当者(PFI推進室長)の講演を聴いて
◎ 吉田の前書き
 平成12年2月8日、東京ねっとわーく(私が参加する、東京都内の超党派議員の政策研究グループで、会長 榎本雄一江東区議)は、定例の勉強会を開催しました。私はその会の幹事長を務めており、今回はたま
たま、インターン学生(大里亨さん)に同行してもらうことにしました。
 講演のタイトル PFI(Private Finance Initiative) とし、民間企業(ゼネコン)の方を講師として迎えることになっていました。下記の内容は、同行したインターン学生の大里亨さんが、その講演を聞いてレポートしてまとめたものです。
 せっかくですので、全文を掲載しました。大里さんは大学3年生で商社に就職希望だと言うことで、内容をまとめるに当たって、PFIと商社の関係にも言及するように指示しました。議会・議員との役割まで書いてくれましたので、私のコメントは省くことにしました。
 講師の方から、大里さんへの文章に対する「書き込み」のメールも届きましたので、あわて掲載いたします。該当部分だけを取り出し、それぞれの見出しの冒頭部分を載せました。
◎ 大里さんの要旨 (戸田建設PFI推進室長の講演を聴いて -それに対する自己の見解-)

 近年のような財政負担に悩む国及び自治体において、PFI 事業を推進することは大いに意義がある。他方、民間としても新規の事業に参入するための絶好の機会となることが予想される。
しかしながら、官民との事業契約では力関係により締結されることが懸念されたり、運営面においては、長期にわたり資金回収を図るための明確なビジョンが要求されるなど着手するにもさらなる検討が必要と思われる。
◎ 見出し
 1. 講演の要旨
 2. 講演に関する自分のコメント
 3. PFIと商社との関係
 4. 議会・議員の役割
 5。 それへの意見など
 
 1. 講演の要旨
 近年、国及び地方自治体は財政難に陥っている。そこで、財政負担の軽減を図るためPFIという手法が必要となる。 PFI (Private Finance Initiative)とは、イギリスのサッチャー政権において端を発したもので「小さな政府」を標榜するべく民間主導の下で、それらの有する資金やノウハウを最大限に活用することにより、財政支出を減らすために実施されたものである。その根底には VFM (Value For Money) 、すなわち、最少の費用でもって最大の効果を地域住民に与えるようなサービスを提供するという理念がある。PFI推進法によると、道路、公園、鉄道など、いわゆる公共施設はもちろん、刑務所もその対象となり、原則的には「何でもあり」となっている。
 PFI事業の類型としては、 BOT 方式、 BOO 方式などいくつか列挙されるが、なかでも戸田建設は BOT 方式を検討中。公共施設を建設 (Build)し、ある一定の期間保有 (Own)し、運営をすることでコストの回収を図り、後に公共側に譲渡(Transfer) する。
 事業に着手するにあたっては SPC (Special Purpose Company) という特別目的会社を設立し、主として国あるいは自治体との間で事業権契約、金融機関との間では融資契約、建設会社との間では建設契約、保険会社との間では保険契約を結ぶ。資金調達の際には、通常の企業形態のように担保として土地や企業信用などの概念は無いためキャッシュフローが担保となる。
 効果としては、国、自治体の財政負担が軽減されて新事業に着手する機会も増大し、地域住民が生活するうえで基盤となるインフラ整備に寄与できること、一方、民間企業としても新しい分野への参入機会が増えることで経済は活発となり、景気対策としても有効である。
2. 講演に関する自分のコメント
 確かに、 PFI という構想それ自体はきわめて画期的である。しかしながら、講演を聴いて感じたことは PFI では民間が主体となって事業者が、すなわちそれに着手する側が「一方的に」手を加え、サービスを提供していくことになる。そもそも、公共事業の本旨は住民のために真に必要となるサービスを「供給」することにある。「提供」と「供給」とは異なる。供給とは需要者側のニーズを前提として、それに応じることである。つまり、PFIは住民たちの意見を反映したものとなることに期待したい。近頃の公共事業を見ていると、本当に道路を直す必要があるのか、本当にダムを建設する必要があるのかと疑問に思うことがよくある。要するに、ムダが多いのである。(確かにそれらは結果的には呼び水となって失業者解消に貢献しているが、ただ闇雲に公共事業をやればよいというわけではない)繰り返すが、住民のニーズに応じた PFI の実行に期待したいというのが率直な意見である。
 また、 PFI 推進法に関して感じたことであるが、この法によると、公共性の高い施設の場合は土地は期限付きで無償貸し与えとなり、日本開発銀行は無利子で融資してくれ、借地権も発生しないので事業者にとっては公共性の高い施設を造るほうがメリットがある。この条文を反対解釈してみると公共性が低い施設を造れば借地権が発生するので、固定資産税が市の財源となることが考えられる。つまり、市としては事業者が公共性の低い施設を造ることで(公共性の低い施設を意図的に造らせることで)財政収入を図ることができるのではないか。
3. PFI と商社との関係
 商社は情報が命である。とりわけ総合商社は海外に進出しており、世界各地で得た様々なノウハウを多分に有している。つまり、商社の持つ他業界と比しての相対的(情報の)優位性がPFI推進の上での中核となることは間違いないとの点で PFI との関わりが見られる。
 総合商社がこれまでに手がけた PFI 事業の実例を挙げれば、トルコの上水道事業がある。トルコはかつて深刻な水不足に悩まされ、当時は資金面でも問題があり、単独ではなかなか解決ができなかった。そこで、総合商社が出資に加わり施工後所有権はトルコに譲渡する BOT 方式が断行された。
 また、インドネシアでの火力発電所もPFIの所産である。(同国もやはり資金面で問題を抱えており、インドネシア政府は 91年に外資の導入により国際入札を行なった。)そして、火力発電所を建設、所有、運営し 30年にわたって電力を売ることで投資資金を回収する BOO 方式を採用した。このように商社はこれまで築き上げたノウハウをフルに活用することで比較的容易にPFIを単独で、あるいは他の企業、業界と提携することによりPFI推進を促せるのではないだろうか。
4. 議会・議員の役割
 
  PFI とは何か?まずはこういった質問が一般的であることが予想されるため、知識の普及、情報の公開により、住民に PFI に関心を持ってもらうことが必要である。第 2 番目として、住民の声を聞いたうえで着手していくよう心がけなければならない。これら 2 つの要件を兼ね備えて初めてPFIは民主主義的な形態となるのである。今日のような PFI 黎明期においては、とりあえず PFI 事業に関する啓蒙活動が要求される。
<この行で、大里亨さんの作成記事は終わります。
*1. 講演の要旨への講師の書き込み
 ご説明の中でも申し上げましたが、ゼネコンをはじめPFI事業に参加する企業は事業参加にあたっては、リスクの回避に努めます。現状の日本の公共事業においては、独立採算的な公共事業で、収益性の期待できる事業ほとんどないことから、このようなPFI事業にはBOT,BTO、BOO方式では、民間企業は受け入れないと考えます。従って、リスクの少ないサービス提供型の事業にのみ注目しているのが現実でしょう。
  ゼネコンの本音としては、建設のみを有利に受注するための手段としての、PFI事業へ参加(出資)であり、事業内容の拡大による収益増は、重要視していません。戸田建設は、BOTを検討しているというのは、表向きの話しであると理解して下さい。(先日の勉強会では、ゼネコンとしての立場でのPFIは控えてお話ししたつもりです)
 また、建物施設の所有権に付いては、民間リスクが高いことから、BOT、BOO方式は、民間事業者は避けたいと考えます。公共はサービス提供が目的であり、建物施設の保有は本来必要がないと考えますが、民間側も同様に建物施設の所有権の保有を必要としません。お互いに矛盾していますが…….。

*2. 講演に関する大里君のコメントへの講師の意見
 このような、論旨の組立は残念ながらありえません。固定資産税をPFI事業にオンすることは、PFI事業者の入札価格に加算され、ついては住民へのサービス料に跳ね返ります。つまり、納税者への負担増になります。
 何故に無償とするのかの本質をご研究いただければ幸いです。また、PFI事業により財政収入を期待することは全くナンセンスであり、PFIの目的に背を向けることになります。
 PFI推進法は、これを阻害する税制や規制等の要因があれば、取り除くことにより、高いVFMの実現を図ろうとするものです。そのことは行政や議会の重要な役割と考えます。
*3. 大里君作、PFIと商社との関係への講師の書き込み
 海外と日本国内との事情の違いは、商社にとって大きなPFI事業にあたってのネックとなっています。その理由としては、
  @今まで自治体相手の商行為が少なく、自治体からの情報収集が弱いこと。
  A国内における資金調達力に必ずしも強くないこと。
  BDBや施設運営のノウハウを持っていないこと。
  C企画提案する部門が社内にない(ほとんど外注)こと。等々。
 から、現状では、総合力に勝るゼネコンをパートナーとして組み入れない限り、まずPFI事業には乗り出せないのが実態です。海外で、商社が強いとされているのは、地についた海外拠点を持っていることや貿易
業務により、リスク対応力が優れていたところにあると考えます。商社の実情は、大手とはいえ経営不振に陥っており、しばらくは日本版PFIについては、無理な投資を避け、静観状態といえるのではないでしょうか。
f51203152 (インターン生(大里亨さん)のレポートは、この行で終わります)