小川小学校卒業式校長先生式辞について

前書き

 2001年3月23日に開催された小学校の卒業式に出席しました。その感想を書きました。(01.  小学生の卒業式に出席して をご参照下さい)
その後、その式で小原校長先生が式辞を述べられた内容を文章でいただきました。実際の小学校の卒業式がどのようなものか、と言う見地でその全文を紹介します。
 卒業生は自分の夢や願いを全員述べましたが、校長先生は式辞の言葉をみると、事前にその内容を聞いておられたようです。私の報告とも照らし合わせてください。
 
 なお、式辞は「紙」でいただいたため、OCRで読み込みました。校正はしていますが、文章に間違いがあれば、吉田の責任です。

小川小学校卒業式校長先生式辞の全文


平成12年度第26回式辞

 校庭の桜のつぼみも膨らみを増し、一段と春めきはじめた佳き日に、小川小学校第26回卒業生として、巣立ちの喜びを迎えられた82名の皆さん、卒業おめでとうございます。
 また本日の式に際しまして、早朝より、教育委員会学務課副主幹・長谷川栄司様はじめご来賓の皆様、保護者の皆様にご来校傾きまことにありがとうございます。心より御礼を申し上げます。
 卒業生の皆さん、ただいまお渡しました卒業証書は、六年間に亘る小学校の全ての勉強が修了したという印です。皆さんの苦労と努力の結晶です。卒業証書を授与する際、皆さんは一人一人、夢や願いを宣言してくれました。人の命を救う医者になりたい、思いやりのある先生になりたい、保母さんになりたい、漫画家になりたい、スチュワーデスになりたい、お父さんのような消防士になりたい、詩を書く人になりたい、英語を話せるようになりたい、美容師になりたい、芸術家になりたい、ロボットをつくる技術者になりたい・・・82人の全員が素晴らしい夢や願いを発表してくれました。
 「旅立ちの日に」という歌の歌詞にも、「勇気を翼にこめて希望の風にのりこの広い大空に夢をたくして」とあります。皆さんは、小学校という世界からさらに広い世界に、今、飛び立とうとしています。未知の世界に出ていくとき、人は誰しも不安を持つものです。しかし、未知の世界であっても「どうしても頼みたいもの」(夢・希望)があれば、怖さを克服し一歩踏み出せるものです。その推進のエネルギーの元が、「チャレンジ精神」とか「勇気」というものでしょう。
 卒業に際して、「不足感を宝に」という話をさせていただきます。「不足感」、つまり「充たされていない気持」あるいは「不利な条件、ハンデ」といっていいでしょう。
 7、8年前になりますが、俳優の牟田悌三さんが、この方、長い間ボランティア活動を続けられている方ですが、「最近の若者は、不足が不足している」という話をされていました。どういうことかと言いますと、国全体が貧しく人々が生活するのがやっとの時代は、食べること、着ること、住むことに不自由していました。収入も十分でない時代は「したいこと、なりたいこと、手に入れたい物」などの願いがなかなか叶えられませんでした。だから、いつも居・食・住だけでなく心の面でも満たされない不足の状況でした。しかし、最近の若い方たちは豊かな生活環境の中で生きているせいか、「足りないという実感がな
いようだ」というのです。ボランティア活動をしていると、そのことがよく分かると言っています。人は、お腹が空けば「食べたい」という気持ちがわきます。しかし、いつでもお腹が満たされていると「食べたい」という空腹感がないのと同じように、自分は「何をしたいのか」「何がほしいのか」生きる目標を持てないでいる。そのことを「不足しているという感覚が不足している」といっているのです。ボランティア活動に参加して、初めて「自分の進むべき道が掴めた」と、語る若者が多いと話していました。
 この「不足の感」が、特にこれから社会で活躍していく皆さんには大切なのです。人は誰でも「認められたい、誉められたい、よりよく生きたい」などの願いを強く持っています。こうした願望は、現在の「不足感、ハンデ意識」が大きいほど強くなります。この「不足感、ハンデ意識」こそ様々な困難や恐怖心を克服し勇気を与え、皆さんの夢や希望を現実のものとしてくれるエネルギーなのです。

 どんな人でも「ハンデ意識」を持っています。この「ハンデ意識」を「宝」にできるかは、皆さん一人一人の心次第なのです。「宝」にした人は、沢山います。体に障害を持つことも一つの「ハンデ」です。自閉症というハンデがありながら、水墨画ですばらしい才能を発揮している成瀬に住む雪島淳さんと言う方がいます。直接お会いしたわけではありませんが、新聞で知りました。近くの方ですので知っている人もいるかも知れません。雪島さんは子どもの頃から数字とアルファベットに特別な興味を示し、百年先の日付でも曜日を抑座に答えられる特技を持っているそうです。
 その一方で、人とのコミュニケーションが若手です。町田の常磐町にある障害を持つ人を対象にした「セラピアン」というアトリエに通い始めたのがきっかけで水墨画を始めたそうです。ある時、金子みすずの「大漁」という詩を筆で書いたとき、下半分が大きく空いてしまったので、試しにイワシを見て絵を措いてみた。すると雪島さんのユウモラスな筆のタッチが、詩を一層際だたせたということです。以来、水墨画に取り組み、個展を開くまでになったとのことです。「ハンデは力」というタイトルで開いたということです。
 雪島さんは、人一倍「認められたい、誉められたい、みんなと一緒に仕事をしたい」という願いの強い方だと思います。そうした「・・・したい。」という夢や願望が、個展を開けるまでの力をつけたのだと思います。
 卒業アルバムに、「挑戦する意欲」「創り出す知恵」「奉仕する心」と書かせてもらいました。誰でも、どこかに「キラリ」と光るものを持っています。その光るものは、今は輝いていないかも知れません。しかし、自分の「夢」や「希望」を持ち、勇気と努力でつかみ取ろうとするとき、様々な知恵が沸き出てきます。そこからきっと光り輝くものが出てくるものと信じます。様々に悩み、苦労し、工夫と努力を重ねることから、思いやりの心、
奉仕する心が培われるものです。是非、今の「夢」や「願い」を持ち、たゆまぬ努力を続けてください。
 最後になりましたが、ご列席いただいております保護者の皆様に一言お慶びを申し上げます。本日はおめでとうございます。お子さまはいよいよ中学生になられます。人生における最も難しい時期に入ります。楽しみの多い反面、心悩まされることも多いかと存じます。しかし、保護者の皆様の真剣に生きる姿が、必ずやお子さまを感化され、後ろ姿から「夢」と「希望」を持ち、達しい人生を歩んでくれるものと信じます。どうぞ、温かく見守り導いてください。
 尚、これまでいただきましたご厚情に深く感謝いたしますと共に、今後ともよろしくお願い申し上げます。これをもちまして私の式辞といたします。

       平成13年3月22日

町田市立小川小学校長 小原 良雄


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