5 開票作業
 
 実に大掛かりな開票作業であった。電子投票への関心がたかまり、「われわれのように外部から来たものは、開票作業が行われる会場に入りきれないかも知れない」、と言うとんでもない噂が脅かされた。実際には、開票所となる「まなび広場にいみ 大ホール」の収容人員は、1,001人である。(町田市の市民ホールよりも広く、200名分もでかい)それほどの人が、選挙の開票に来るわけもなかろうが、なにせ日本で最初の電子投票である。開票時間にならないと、新見市の人たちがどのくらいに開票所にやってくるか分からないのである。

<開票所に入る以前の風景>
 なにが何でも、私は電子投票の開票を実地に見る!
 この考えでもって、私は朝早くから、いや前日から新見市に宿泊をとり、投票の光景と開票作業を見守るために待機していたのである。それが、「開票会場は満員になるので、会場の外で待機する」という、そんなことを自分が納得するはずが無い!

 なんとしても、入り込んでやるのだという覚悟で、会場の周辺を眺めまわした。この行動には、途中で出会った白鴎大学福岡ゼミの平野君も同一行動を取り始めた。(その平野君と言うのは、わが福岡先生のゼミから、一人で電子投票のフィールド調査にやってきた人物)かれは、その経過を終始ビデオテープに収めていた。

 とにかく、開票所の入場手続きを、はっきり確認しておくのが常道と言うものである。そのために、投票所の取材を一度中断し、取り合えず、昼食を開票会場の近くでとる。なにせ、開票所には数百人の見学者が押しかけているので、食事を取りそこねたら大変である!それが済むと、私は、開票会場の周辺の観察を開始した。TVの中継車は、前日からすでに道路部分に待機していた。関係者は、時折TVモニターのニュースを見つめていた。そこには、この日の電子投票の視察に訪れた片山総務大臣が、そのコメントとともに映っていた。ただし、TVの夕方までのメインニュースは、電子投票を日本で最初の行った人のインタビューであった。なにせ、その主役の人物は、投票所の前で寝袋を持って、第一番投票を待っていたのである!そうした、TVニュースを見たりしながら、まだまだ開票には時間をもてあます時間であった。

 周辺の探索中に私が見つけたのは、開票会場の「まなび広場にいみ」ホールにつながった、ニューメディアセンターであった。たくさんのパソコンが配置されており、無料で使えるという。(ネット後進地の町田市には、そうした設備はわずかしか無い)早速、それまでに取材したことを、自分のHP掲示板に書き込み作業をした。恐らく、現地を電子投票の取材訪問をして、その施設で会員登録を済ませ、ネットパソコンを利用した人物はおるまい。もとより、その新見市のHP掲示板にも、記念の書き込みをした。

 そうした後の時間では、開票所がある建物の内部を窓越しに観察したが、内部にはプレスセンターが設置されており、各社の記者さんは弁当を食べたり、パソコンに向かっていた。

 さて、平成14年6月23日、見学者が多すぎて、会場に入り損ねると大変と思い、午後7時には投票会場に並びだした。

<開票会場に入場して>
 実際には、午後の8時頃に開場となり、入り口で待ちかねた数百人がどっと押しかけた。会場に入ると、先の宮川隆義氏らも一般席に陣取っていたが、新見市の選挙管理委員会職員が気が付き、その主役の人たちはさすがに最前列に移る事になった。奥ゆかしい、人物であった。

 私は、自分の席を確保すると、改めてその投票会場の全体を再度見渡した。その構成は、まず舞台は開票スペースに、観客席は開票観覧者用に当てられていた。
 1列目 候補者陣営スペース(約、100人位)
 2列目 マスメディア(新聞・雑誌記者とTVカメラ関係の人員で、総数200人位。その内の一部は舞台の袖と、2階席の両サイドの前方に突き出した部分に位置した)
 3列目 その他の人(われわれはここに位置付けられた。200人位が一階に、100人位が2階席に位置した。国会議員の人も、まったく同じ扱いで、3−4人が一区画にまとまって着席されていた。(大変公平な扱いで、感心した)その中に、20年程前に知っていた人がいたが、周辺に人が取り囲んでおり、そのままにしていた。

 会場では記者の場合は別途の扱いであったが、フリー記者は一般者とたいして変わらぬ扱いのようであったが、たまたま知人のフリー記者氏は頑張って入り込んでいった。見ると、その人物は、舞台の袖の一角でカメラを頭上に掲げていた。その生命力に感心した。

 さて、私が座った位置の横には、通路をはさんで「議員バッチ」を着けている複数の人たちがいた。たまたま会話をすると、なんとなんと、「岡山市議会議員」の人たちでした!!!私を、車でこの新見市の連れてきてくれたのが、羽場頼三郎議員であった。もとより、会派も政党も違う感じがしたので、それ以上は触れないほうがよかろうと考えた。

 さて、開票スペースの配置であるが、上記のようにその場所は、ホールの舞台上とされていた。一般的には、広い体育館が開票所とされているが、電子投票の実施によって、投票用紙を広げる台が不要になるため、そうした狭い場所(ホールの舞台)で済ませたのだろう。

<開票作業>

 入場後、観覧者が早く入りすぎためか、とにかく会場内でまたされた。舞台には、誰も座っていない長テーブルと椅子が、それぞれに配置されていた。主な配置は、
1 選挙管理委員のグループが座る位置(正面の奥の向かって左側)
2 開票立会人が座る位置(正面の奥の向かって右側)
3 電子投票記録のデーター読み取り機の、操作担当者の位置(舞台中央の向かって左側)
4 電子投票データをBOXから取り出す位置(正面の一番前)
5 不在者投票用紙の開票台(舞台中央の向かって左側)
6 不在者投票用紙の開票台集計の担当者の位置(舞台中央の向かって左側)
7 警察、監視の位置(舞台中央の向かって、一番左側)
    となっていた。

 ようやく、9時頃になって、上記の配置に開票担当者が張り付き、順に電子投票データを入れたBOX(記録媒体としてコンパクトフラッシュというものが使用され、それを入れるのに、鍵付きの金庫が用いられた)が持ち込まれだした。もとより、不在者投票用紙も同様にその位置に置かれた。

 開票作業に先立って、山川次郎選挙管理委員長の挨拶が行われた。この新見市の市長・市議選挙が、日本で最初の画期的な電子投票にあたること。投票がほぼ順調に推移したこと、大勢の関係者の協力があったことなどが報告された。会場からは大きな拍手が起きたが、私は最初に拍手を始め、その拍手の音は、恐らく会場内で一番大きなものであったと推測する。

 さて、いよいよ開票作業が開始された。
 
1 不在者投票分=候補者名を手書きできた分
 1) 投票箱が持ち込まれ、市長候補分と市議候補分のそれぞれに、開票のために作業台の上に全部出される。
 2) 投票箱に投票用紙が残っていないことを関係者が確認する。
 3) 開票台の投票用紙が、候補者名ごとに集めはじぇめられる。
    その後は、100票(50票?)ごとに束にして、開票立会人に点検をお願いする。各陣営の中から、全部で10人の立会人が抽選で選抜されて、全住民を代表してその立会いをする。
 (以下は、後ほど記述)

2 電子投票分=電子投票データ(コンパクトフラッシュと言う名称)をいれたBOX(鍵付き金庫もの
 1)BOXを正面の台に並べ、総数を確認する。封印した封筒から鍵を取り出し、コンパクトフラッシュを取り出す。
 2)そのコンパクトフラッシュを、立会人などが台の上で問題が無いことを確認する。
 3)そのコンパクトフラッシュを、市長・市議候補ごとに、パソコンにいれ、投票数を読み込む。 4)瞬時に、投票数が出る。

 *実際には、1)と2)の作業に延々と時間をかけたため、25分間で終了した。本来は、瞬時に終了するものである。その人員は、2名であった。

 開票では、得票などの数は別途、資料編に掲載するが、市長候補が2名の候補者であったが、現職に圧勝で終わった。

 市議選では、22名が立候補し、18名が当選した。電子投票分の投票は約9割であった。その電子投票分の開票が25分で終了したため、不在者投票の結果をまたず、大半のところで、当選確定者が決まった。

 その開票の経過の中でのことであるが、電子投票では投票用紙を用いないため、その用紙の持ち帰りに相当することがなくなる。また、投票では、白票の相当するものとして、「投票せずに終了」という扱いが持ちられた。現実に、市長選挙では253人が、市議選では100人が、その
「投票せずに終了」という選択を行った。また、電子投票では、手書きのように無効票というものは存在しなくなる。また、用紙の持ち帰りも存在しなくなる。極めて、投票結果がシンプルに出る結果となり、大変分かりやすいものと判断した。(私は、国政選挙でなんどか「開票立会人」をつとめたが、用票用紙ではその投票した相手がなかなかわかりつらい記載を目にすることがある)

 不在者投票の開票では、公明党公認候補への得票が目立ち、その一回目の開票結果には、会場内でどよめきが起きたほどであった。

 全体の開票では、不在者投票分の開票に2時間もかかった。次点者を除いて、それ以下の候補者の得票数が極端に離れていた。それも不在者投票の半分くらいが開票された時点で、当選・当確者がでそろい、結果として、選挙関係者の大半はその時点で席を立ち、各事務所の戻る光景が見られた。
 
 さて、開票状況の発表は、開票所の場内では、事務長から口頭で行われた。外では、結果の紙が貼られたり、インターネット上でアップロードされることで、一般に公表された。

 その開票作業中に、私の周りの一人が言うには、投票数の発表は、「人の読み上げでなく、プロジェクターで表示してもらいたいなー」と言ってましたが、私の同様に考えており、「そうですね。レーザー光線か何かを使って、派手に出来ませんかね」と返した。
 
 選挙をやったものからすると、厳しい戦いと、多くの住民の支持で持って議員が誕生するわけだから、そうしたものがあまりにあっさりした結果では、なにかたよりないない、というのがその電子投票の開票状況であった。そうした印象を改めるためにも、投票にはそれなりの重々しさが必要かもしれない。

 会場には、政治家の見学者は、国会議員を入れても10名程度であった。後で分かったことだが、投票の前日にお会いした、はたともこ衆議院候補が2階席で見学されていたことと、そこに都議会議員の人が数名おられたことが、はたさんのHP記事で判明した。

 さて、当日分の電子投票が一瞬に開票されるのに、不在者投票に膨大な時間がかかった。そうしているうちに、大半の見学者がいなくなる様子がうかがえた。なぜなら、大半の人たちが、この新見市で宿泊先を確保しておらず、車で岡山まで戻る人、とにかく近隣から駆けつけた人などが含まれていた。開票作業が終了したのは、11時30分ほどにもなったいた。

 都会と違って、この時間では鉄道もバスも動いておらず、自前で移動するしかないのである。タクシーやハイヤーは、新聞記者に押さえられている。私は、30分近く歩いたところで、ようやくタクシーを捕まえることができ、その日の内に、ホテルに到着することができた。地方の都市は、都市としての面積が大きく、同じ市内でも移動が大変である。

 かくして、電子投票の開票は、終了した。
 
1 日本初の電子投票を現地で見る
2 私の現地ルポを手伝ってくれた人々
3 市役所職員の頑張り
4 死闘を制した、電子投票メーカー組合
5 開票作業
6 電子投票時代の選挙運動
7 私の、電子投票の一般質問内容(平成13年)
8 私が受けた取材
9 参考資料